世間ではあまり語られることはない

言わずと知れた(あまり知られていない?)ノーベル文学賞作家、オルハン・パムク。受賞してから翻訳が書店に並ぶようになったが(でもそれも教文館くらいなのか)、小説のほうは、なかなか分厚く、高く、ちょっと敬遠してしまい、まだ読む機会に恵まれていない。小説家が小説家たる過程に興味はあったので、エッセイから齧ってみようかなと思って購入。実際にはエッセイではなく講演の内容であるので、話し言葉を読みやすい文章にしてあります。


絶賛された(らしい)ノーベル文学賞を受賞時の講演は、ずいぶんと胸に迫るものがある。小説家になる決意、父親とのささやかな葛藤、トルコ人としてのアイデンティティが、けっして難しくない言葉で語られる。

しかし本の後半、作家の来日時の対談相手が、なぜか佐藤亜紀……。このひとが、ノーベル文学賞作家と対談? ふとした疑問だが、このふたりは何語で会話しているのだろうか? (特に記載が無いので、この本の訳者が編集したと判断しているが)、この対談の日本語が、読むに耐えない。話し言葉をそのまま訳しているようにも見えるし(それにしてもこれはないだろう)、それ以前に、ふたりの会話は全くかみあっていないようにも感じられる。

講演の内容は、とても素晴らしいものですが、最後の対談は、入れないほうが本としてはよかっただろう。気の毒で残念な読後感。もちろん、このトルコ人作家に対して。