おしゃれのベーシック

しばらく光野桃が面白くなくなってしまったのは、文章を書くことを生業とするのであれば、最終的には小説家になりたい、エッセイストでは終わりたくないという、本人の意地のようなものがあったせいではなかろうか。
しかし小説のほうは山田詠美が応援はしていたけれども、これが残念なことに、なかなかいけてなくて、いつのまにかスピリチュ(略)な方向に走ったりしていて、ずいぶん読者が離れたのではなかろうか。
あの初期のエッセイの、母親からの影響、子供の憧憬、洋服への高揚感などをちりばめた輝きはどこにいってしまったのか、とつねづね思っていたのだが。
ちょっと前の雑誌『ヴァンテーヌ』で見た記事は、有名人を比較、という点では、一瞬、齋藤薫の文章なのかと思ったが、それはあきらかに違ってた。(齋藤薫は比較対象を貶さないであろう。)
どうやらウェブ上ではずいぶん問題になってたらしい。いつのまにか『ヴァンテーヌ』の連載コラムが齋藤薫に代わっていたのは、はたしてそのせいなのか?
確かに、このひとの、品の良さのようなものを主張しすぎるという部分は、人の気に障るのかもしれないし、いくら他人を示唆しようとしても、自信の無さが透けて見えるし、そこが「妹たち」の「姉」にはなれなかった敗因だった。

しかし、やはり自分の好きな洋服、ファッションに対する愛情をしたためる時の文章が、一番冴えている。そうそう、このまま、その路線で、いきましょうよ。光野桃の、美しい文章を読みたいと願うひとは大勢いるのだろうから。

表紙のフォックスの傘、いいですねえ。
美しさを追求するひとは、美しくあってほしい。

購入書店:銀座教文館
ブックカバーは赤