ヘンリー・ダーガーの部屋

ヘンリー・ダーガーを知ったのは10年以上前のテレビ番組の特集で、その作品と作者の人生、その存在に強烈な印象を残すことになった。その後、資生堂ギャラリーワタリウム美術館では現物の壮大な絵巻物にお目にかかる機会にもあずかり、先日は原美術館でも展示会があったようだが、そこには結局行かなかったのは、もう実際の作品を見るということは個人的には充分だという思いがあったのだが、ダーガーの部屋の写真を編集したというこの本の存在だけは忘れがたいことだった。
2007年5月号『美術手帖』の特集を手にして、この本を存在を知った。出版者として小出由紀子と都築響一との対談が掲載されている。もし原美術館の展示が部屋の写真であったなら出向いていたかもしれない。(それは商業的に難しいけれど)
ダーガーの部屋の写真! ああ、これは見たい見たいと思いながら、アマゾンでも買えないし、ナディッフにでも行かなくちゃ買えないかなと思っていたら、オアゾ丸善で手に取ることができた。しかも閲覧できるサンプル1冊が店頭に置かれ、商品はフイルムラップしてしてあり、確実な購入者には嬉しいかぎり。(2007/12/14時点で残り2冊) 想像していたより、小さなサイズ。なお、巻末に小出由紀子の文章はあるが都築響一のコメントは無し。


80歳で老人ホームに送り込まれるまでシカゴの小さな一室で壮大な少女のファンタジーをひとりで描き続けたダーガーの部屋が、季節の移り変わりが感じられる陽当たりのよい部屋であったということは意外であった。それでも発見当初はスクラップにまみれて足の踏み場は無かったようだが。
作品が整理されはじめてまもない70年代に撮影された写真と、ある程度ダーガーの存在が知られるようになった後の90年代後半に撮影されたものでは明らかに写真に写る空気感が異なっており、期待した生々しさを感じられないのはいささか残念ではある。本の存在価値はとてもあると思うが、ダーガーを知る内容としては特集された『美術手帖』の方が密度が濃いかも? なお、わたし個人はこの画集は所持していないが、この本は買った。ずいぶん昔からダーガーを知っていたのに、画集を買っていなかったのは、なんとなく機会が無かったのと、気分的に重たかったのが理由かもしれない。


当たり前といえば当たり前かもしれないが、ダーガーの“代表作”『非現実の王国で』の作品のショットはひとつもない。




生活のはざま、ときおりダーガーの人生に思いを馳せる。
その存在に、なぜか生きていくことを励まされる。


参考リンク; これよくできてますねえ

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いま本棚の一番いい場所に置いてある。
ときどき手にとって、ぱらぱらと眺める。

作品よりも、ひとりの作家の人生について考えている。